「今辞めたら損害賠償ものだぞ」。退職を切り出した途端にそんな言葉をぶつけられたら、怖くて動けなくなってしまいますよね。でも、その言葉に萎縮して退職を諦めてしまう前に、法律がどうなっているのかを知っておいてください。
「辞めたら損害賠償」は、そもそも簡単に成立するもの?
まず前提として、退職すること自体は法律で認められた労働者の自由です。期間の定めのない雇用であれば、民法627条により、退職の申し入れから2週間の経過で雇用は終了するとされています。
そのうえで一般論として、「退職したこと」そのものを理由とする損害賠償請求が認められるケースは限定的だと言われています。損害賠償が問題になり得るのは、たとえば重要な業務を担う人が引き継ぎを一切しないまま突然いなくなり、会社に具体的な損害が生じた、といった特別な事情がある場合などとされますが、これも個別の事情によって判断が分かれる領域です。
つまり、「損害賠償するぞ」と言われた=支払い義務がある、ではありません。ただし逆に、「自分のケースは絶対に払わなくていい」と自己判断で断定するのも危険です。だからこそ、後述する専門家への相談が大切になります。
法律は「辞める自由」を守っている
覚えておきたい法律のルールが2つあります。
ひとつは労働基準法16条です。「辞めたら違約金○万円」のように、あらかじめ違約金や損害賠償の金額を決めておく契約を、法律は禁止しています(賠償予定の禁止)。誓約書や雇用契約書にそのような条項が入っていても、その条項自体が法律に反している可能性があります。なお、研修費用や留学費用の返還条項は内容によって判断が分かれます。退職を思いとどまらせるための実質的な違約金であれば問題になり得ますが、労働契約とは切り離された純粋な費用の貸付と評価される場合には有効とされることもあるため、該当する条項がある方は書面を用意して専門家に確認してください。
もうひとつは労働基準法5条で、暴行や脅迫などにより、労働者の意思に反して労働を強制することを禁じています。「損害賠償」という言葉で脅して辞めさせない行為は、こうした法律の趣旨に照らして問題があると考えられます。
あわせて、「賠償金の分は給料から差し引く」と言われた場合も注意が必要です。賃金は全額を支払うのが原則とされており(労働基準法24条)、会社が一方的に損害額を天引きすることは原則として認められていません。最後の給料が不自然に減っていたら、そのままにせず相談しましょう。
※個別の契約条項が有効かどうかの判断は、専門家の領域です。書面を手元に用意したうえで、必ず相談してください。
言われたときに、やってはいけないこと
- その場で念書や誓約書にサインする:「損害を賠償します」といった書面への署名を求められても、その場では応じないでください。一度署名した書面は、あとで不利に働くおそれがあります
- 口約束で支払いに応じる:金額や理由がはっきりしないまま「払います」と言わないこと
- 記録を残さず感情的にやり合う:やり取りは可能な範囲でメールや書面など記録が残る形にし、口頭で言われた場合も日時と内容をメモしておきましょう
- 怖さから無断欠勤や音信不通を続ける:連絡を完全に絶ってしまうと、かえって状況が複雑になることがあります。対応を任せられる相手(後述)を通じて、退職の手続きをきちんと踏むほうが安全です
また、脅すような言葉を受け続けると、眠れない・食欲が落ちるといった不調が出ることもあります。心身のつらさを感じたら、手続きと並行して、早めに医療機関(心療内科・精神科)や公的な相談窓口を頼ってください。
困ったときの相談先はどこ?
- 弁護士:損害賠償をほのめかされているときの本命です。会社への反論や交渉、訴訟への対応まで代理できるのは弁護士だけです。弁護士が対応する退職代行サービスの無料相談や、法テラス(日本司法支援センター)という入り口もあります
- 総合労働相談コーナー:各都道府県労働局などに設けられた、無料で使える公的な相談窓口です
- 労働組合:退職条件についての団体交渉は可能ですが、損害賠償請求への法的な対応(訴訟など)は弁護士の領域です。会社が「請求する」と明言しているなら、はじめから弁護士に相談するほうがスムーズです
なお、民間の退職代行業者は、退職の意思を伝えることはできても、損害賠償をめぐる話し合いには対応できません。トラブルの気配があるときのタイプ選びは、慎重に行いましょう。
まとめ:脅し文句に、ひとりで向き合わなくていい
- 退職は法律で認められた自由。「損害賠償」という言葉だけで諦めない
- 違約金をあらかじめ決めておく契約は、法律で禁止されている
- その場でのサイン・口約束は避け、やり取りの記録を残す
- 「請求するぞ」と言われたら、早めに弁護士や公的窓口へ相談を
※本記事は一般的な情報であり、個別のケースについて法的な判断を示すものではありません。実際の対応は、弁護士などの専門家や公的な無料相談窓口でご確認ください。